奥尻島ではキトビロが終わりを迎える頃、柳の芽が顔を出し始める。
なんとも言えない、この優しい色合いが好きだ。
そして柳のことを知るともっと好きになった。
そもそも森の成り立ちは?
まず自然の特性として、さら地をほっておくと森に戻ろうとします。
それを遷移(せんい)と言います。
順番としては
①草原:ヒメシバなどのイネ科→ヨモギ→ススキ→イタドリなど大きい草へ
②低木林:日向を好むヤナギ(湿気大好き)、カバノキ(乾燥大好き)、クワ(海岸大好き)
③木々の選手交代:日向を好む陽樹→比較的暗い林床でも育つ陰樹へ(ナラ、カエデ類)
④ブナ林へ:土壌も豊かになり、全ての条件が整って初めて勢いよく伸びてくるのがブナです。なのでブナ林はこの道南地域では森の完成形(クライマックス)となります。
奥尻島は
『ブナの浮島』
の異名を持つので、森が豊かなことがわかります。
森再生の特攻隊長
太陽大好きな陽樹の中でも第一陽樹と呼ばれるヤナギ、ダケカンバ、アカマツ、ヤマハンノキなどは
山が裸になったところにいち早く生え、森の再生に向けて動き出します。
しかも森をある程度緑化すると、後腐れもなくかれてゆき、第二陽樹(コナラ、イヌシデ、アカシデ、ヤマザクラなど)に道を譲る。
ピンチな時にやってきてサッといなくなるウルトラマンのようなヒーローですね。
裏を返せばヤナギのあるところはまだ若い森だと言うことです。
奥尻島はヤナギの楽園
ヤナギは種が小さいためドングリなどに比べると種にエネルギーが少ない。
だからこそ土の養分と太陽の力が不可欠。
そして水も好物。
奥尻島は水が豊富にあるため川が氾濫し、荒れ地や裸地ができる。
ブナ林なので土壌も豊か。
荒れ地や裸地は光を遮るものがないので太陽も浴びられる。
そう、奥尻島はヤナギにとって必要なものが全て揃っている楽園だったのです。
親の顔を見られない
そんなヤナギの木に僕は心を重ねます。
考えてみると
太陽が大好きなヤナギ。
背丈の大きくなった親のそばでは小さいヤナギの子どもは光を浴びられず生きていけない。
だから初夏に綿毛に包まれた赤ちゃんは親の顔を見ることもなくまた荒れ地を求めて旅をし、
森の応急処置をしてまた旅立つ。
それを繰り返すヤナギに感謝するとともに
一度でもいいから親のそばにいさせてあげたいと
老婆心ながら思うのであります。
シシャモの語源だよ
ちなみにヤナギの葉のことをアイヌ語で
ススハム
といいます。
サケがとれなくて困ったときアイヌモシリ(アイヌの人)がカムイ(神)に祈りをささげたところ、柳の葉が川へ落ちて魚になった。これがシシャモであった
ススハムがなまって
シシャモ
となりました(諸説あり)
土砂崩れの救世主
実はこのヤナギ、枝を地面に刺しておくとやがて切り枝から発根します。
そして緩んだ地面を結束します。
しかも裸地を緑化するおまけ付き。
アイヌ語で木のことを
『シリコロカムイ』
といいますが、
日本語に訳すと
『大地・持つ・神』
アイヌにとって木は生えているものではなく、木が大地を掴んで支えているという世界観があるのです。
僕のヤナギが好きな理由
森への再生に向けてどこからともなくやってきて
役目を果たすと潔く散っていく
そして蓄えた養分を大地へ還し
命のバトンを次に渡す
子どもたちは親の顔も見ず、意志だけを受け継ぎ
初夏に次の地へ旅立っていく
どこか儚くもあり、そしてあったかい。
そんなヤナギが好きです。