「ゴミ拾いをさせていただく」
この言葉の真意を知ることが、僻地、特に離島でのゴミ問題を考えるきっかけとなります。
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奥尻町のゴミ事情
一般的に、小さい市町村は近隣の町と共同でゴミ処理場を運営しています。
奥尻島の人口は約2300人(R5年)
日本に約400個ある有人離島のうち、奥尻島は19番目に大きい島です。
つまり、島はかなり大きいが人口の少ない地域です。
当たり前ですが、奥尻島は離島です。小さい市町村にも関わらず、近隣の町と共同でゴミを処理できない状況にあります。
ここで札幌市と奥尻町で一人あたりのゴミ処理手数料を比較してみます。
(ritokei No41より抜粋)
<一人が一日あたりに出すゴミの量>
奥尻町=1.24kg
札幌市=0.85kg
<一人にかかる一年のゴミ処分費>
奥尻町=132,362円
札幌市=25,863円
このデータから読み取れるのは、大きく2つ。
①ゴミをリサイクルするためにも輸送コストがかかるため、都市部に比べて処分するゴミの量が多い。
②ゴミの量が多いのも原因だが、焼却施設や不燃物埋立処分場の導入、維持管理コストが割高で費用がかさむ。(都市部の約5倍)
ジレンマとの戦い
以上のような、課題をかかえていることを知っているからこその悩みがありました。
「奥尻ブルーと美味しい海産物」と謳って観光PRをしているが、浜辺には漂着したゴミが山のようにある。拾ってキレイにしたいけれど、拾えば拾うほど町の財政を圧迫する。しかも、拾っても拾っても時化る度に振り出しに戻る。
でも僕はシンプルに、「目の前のゴミを放置し続けるのは一人の地球人として違う」
と思っていて、2018~2022年までは年に1,2回ほど行政にご協力をいただき、
全国から集った大学生ボランティアと共に海浜清掃をさせていただいていました。
1時間もゴミ拾いをすれば、2tトラックに乗り切らないほどになります。
ちなみに、漂着ゴミは潮を含んでいるため、焼却炉を痛めるということと、環境に悪い煙が出ることから焼却することができません。なので、場所の限られた最終処分場に埋め立てるしか手段はないのです。これでは、根本的な解決にならないし、先の見えない活動に悶々としていました。
福井県でのきっかけ
2022年の秋に、妻の実家がある福井県に帰省したときに、地元のイベントに遊びに行くことになりました。家から出たペットボトルのキャップを持ち込んだら、その量に見合ったイベントで使える金券をもらえます。そして集まったキャップはその場で粉砕され、溶かされ、型に入れられてプレス、新しいプラスチック製品にアップサイクルされる実演を行っていました。
そのイベントを行っていた、アノミアーナ代表の西野さんと出会い、興味を持った僕は、後日お話をする機会を作っていただき、海洋ゴミのいろはを教えていただきます。
「ただ拾って埋め立てるのではなく、ゴミを有価物に変えて、アップサイクルする」
これなら奥尻町に負担をかけることなく、ゴミを少しでも減らせると思いました。
テクノラボさんとの出会い
西野さんにご紹介していただき、神奈川県にある、主にIoT機器、医療機器向けのプラスチック筐体のデザインや少量⽣産を⾏うプラスチックメーカーの「テクノラボさん」と繋がることができました。テクノラボさんは、世のためになるプラスチック製品を作っている身として、プラスチックが地球環境問題を引き起こしていることに胸を痛めていて、できることをしたいという強い想いを持った方々で、「buφy = いつか無くなるために存在するブランド」を立ち上げて活動されています。
以下のような手順を踏むことで、ゴミだったものが意味あるものに変身します。
①漂着したプラスチックゴミを拾う
②キレイに洗浄する
③15cm角に裁断する
④色分けして箱詰めする
⑤テクノラボさんに発送し、ゴミだったものを有価物として購入していただく
⑥奥尻産のゴミでアップサイクル製品が完成する
⑦有価物で得た利益で、その製品を買い戻す
⑧アップサイクル製品を通して、海洋プラスチック問題を自分事化する
実際にやってみた〜パート1〜
2023年3月上旬に、大学生ボランティアと共に、奥尻島の東海岸(稲穂〜青苗)のゴミを張り切って拾いました。あっという間に軽トラ4台分になりました。
何がつらいかと言うと、
「ゴミを選んで拾わなければならない」
ということです。
今回の取組では、漁網や、ペットボトル、発泡などはアップサイクルできないので、ある程度硬さのあるプラスチックゴミのみを拾うことになります。
このもどかしさと言ったら。。。
そしてここからは、ひたすら洗浄、裁断です!!
プラスチックの硬さ、完全に舐めていました。
もう泣きたくなるくらい粉砕できません。
ましてやブイなんてどうしたらいいか途方に暮れてしまいます。
でも集めてしまったものだから、やるしかない。
みんなでまる二日かけて、なんとか終了!!
実は、僕はケチってしまって裁断機の購入をしなかったのです。
3万円以上するので。。。
でも本当に大変だったので、次回のために思い切って購入することにしました。
実際にやってみた〜パート2〜
今回は、大学生に加え、奥尻高校生や島民にも声をかけ、総勢25名ほどで動き出しました。
前回の経験から学んだこと。
①プラスチックの中でも、粉砕しやすいものと難しいものがあることを知る
②裁断機は必須
③裁断したあと、ゴミの内側もよく洗浄する
④拾うことより、その後が大変
ということで、前回より格段に安全に効率よく作業を進めることができました。
アップサイクル製品が届く
3月下旬に発送し、約2ヶ月後に完成したコースターがやっと届きました。
手元に届いて、感動!!
これはもはや「製品」ではなく「芸術作品」だと思います。
この活動が「答え」ではない
そもそもこの活動が、最も優れた解決策だとは思っていません。
なぜなら神奈川県に発送しているからです。
当然輸送をする上で、CO2を排出しています。
また、ゴミの入り口から考えないと、漂着したゴミばかり拾っていても海洋ゴミの全体量は変わらないどころか、増えていくでしょう。(2050年には魚より海洋プラスチックの方が多くなると言われています)
しかし、この活動を通して、これからを生きる世代が環境を考えるきっかけとなり、暮らし方が少しでも変われば、それは価値のあることだと信じています。
更に、今回一緒に汗水垂らして苦労したことで、否が応でも日常生活を顧みるきっかけになったはずです。「なんでも効率化を求めればいいとは限らない」とも思いました。これが仮に、サクサク自動でアップサイクルまで完了してくれるロボットがいたら、それはそれで楽かもしれませんが、きっと人間のライフスタイルは変わることはないでしょう。
正解などないとは思いますが、今僕たちが奥尻島でできることは、ある程度苦労しながらも、地道にこの活動を続けることだと思っています。
「使い捨て文化」
なぜ簡単に捨てられてしまうのでしょうか。
「まず安価で代替が容易。そして作り手の顔が見えず想いが伝わりづらいこと」
だとすると、
「ある程度高価で、再現性がなく、作り手(拾い手?)の顔が見えるようにし、ストーリーを伝えることで、簡単には捨てられないモノ、まさしく『価値を高めてリサイクルする=アップサイクル』になる」
と思います。
例えば、目の前に2つのコップがあります。
一つは100均で買ったもの。一つはおじいちゃんが孫(自分)が生まれた時に庭に植えた木を伐採し、加工して、二十歳の誕生日にプレゼントしてくれたものだとしましょう。
前者は失くしてしまったら、また買えばいいかもしれません。
後者はそうはいきません。
おじいちゃんが木を植え育てた気持ち、加工した時間、想い、それらは再現性がありません。
まさに唯一無二のもの。何年も大事に使い続けたら、なおさら愛着が湧いてきます。
ましてや、おじいちゃんがもう亡くなっていたとしたら。
「コップ」という同じ「機能」があるものでも、お金で買えるものと買えないものがある。
観光も同様に、「一度行ったからもういい」と言った「使い捨て観光」にならないように、お金では買えない、再現性のない時間や体験を提供したい。何度でも友人や恋人、家族を連れて訪れたいと思ってもらえるように、顔が見え、暮らしている方々の想いが伝わる観光案内をするのが、ネイチャーガイドの大切な志事の一つだと考えています。
これからのこと
僕は常々、
「あー楽しかった」
だけではない観光、滞在時間を提供できたらと思いながら宿泊業やガイド業をしています。
これからは、SUP体験の前にゴミを拾って、洗って、裁断して、色分けするところまで、ゲストと一緒に行い、それからきれいな奥尻ブルーへ漕ぎ出す。といったようなことを考えています。
観光に来た方の見えないところでゴミを拾い、一見美しく感じる浜を見せることが決して正義ではないかもしれない、と思うようになりました。だって僕自身、奥尻島に移住して海辺で暮らすようになるまでは、このような漂着ゴミの現状を知らなかったので。
だからこそ、「現実も見てもらい、一緒に汗をかく」
そしてこの経験ができるだけ風化しないためにも、お土産としてコースターを買っていっていただく。ちなみにコースターはimacocoにて、1個1,000円で販売しています。
いつかゴミを拾わなくてもいい日が来ることを願って、未来からの借り物である地球への感謝の念を行動で示していきたいと思います。
長文になりましたが、最後までお付き合いいただき有難うございました。
PS NHKローカルフレンズニュースで放送されました。ご覧ください。